コミュニティの力は、連帯の力。ジェンダーで悩む人に「一人ぼっち」じゃないと伝えたい。IWAKANコミュニティの存在意義
キャリア
2023.04.12
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NEWPEACEではこれまでに数々の自社コミュニティを運営し、社会課題の解決を目指してきました。
その中の一つ「IWAKAN」は、ジェンダーやセクシュアリティの観点から、世の中の当たり前に“違和感”を問いかけるマガジン『IWAKAN』に共感した人々が集うコミュニティです。雑誌『IWAKAN』の発行を中心に、Podcastの配信やInstagramの投稿、リアルやオンラインでのイベント開催などを行っています。
IWAKANコミュニティの運営はNEWPEACEのIWAKAN編集チームによって行われており、Edo Oliverはその一人です。
Edo Oliver
メキシコ生まれ、カナダ育ち。NEWPEACEでIWAKANのクリエイティブディレクションとコミュニティ運営に携わる。「普通」と思われていることに疑問を投げかけ、クリエティブの力で社会をより良く変えていくことが目標。
NEWPEACEでの活動の他にも、フォトグラファーやドラァグクイーンなどの多彩な横顔を持つEdo。IWAKANコミュニティの運営に、どのようなやりがいや社会的意義を感じているのか聞きました。
「辛い思いなんかしなくていい」雑誌やPodcastで発信する理由
−− Edoさんは今、IWAKANチームでどのような仕事をしているのですか?
雑誌『IWAKAN』の制作に関しては、主にクリエイティブディレクションをJeremyと一緒に担当しています。ただ編集チームのメンバーが4人と少ないので、編集やプランニング、Webサイトのリニューアル、記事の執筆、インタビューもしています。
IWAKANコミュニティの運営に関しては、リアルやオンラインのイベントを開催したり、SNS投稿などをしています。特に最近力を入れているのは、2022年9月に始めたPodcastの配信です。
番組名は『なんか IWAKAN!』。恋愛やメディア、テクノロジー、政治、環境問題、ポップカルチャーなどの社会の様々な側面がジェンダーとどのように関係しているのかを、編集チームで議論するコンテンツです。私は毎週のエピソードで話し合うテーマを提案するなどのものづくりの仕事もしています。
Podcastを始めたのは、『IWAKAN』を扱う書店が近くにない人や、お金のない学生にも届けられる無料のコンテンツが必要だと思ったから。この番組を始めてから「Podcast聞いています!」といろんな人が声をかけてくれるようになって、コミュニティの人数が倍ぐらいに増えたので、私たちにとって本当に大切な存在になっています。
−− そもそもEdoさんは、なぜIWAKANコミュニティの運営をやろうと思ったのでしょうか。個人的な経験が影響していますか?
うーん、そういうわけではないかも(笑)。私自身、NEWPEACEに入った頃には自分という人間は確立していたように思います。もちろん私自身も「共感してくれる人が周りにいなかった」という経験はしたことがあるけれど、だからこそ強くなるしかなかった。私がすごいんだと言いたいわけではありません。たとえ世界が「あたし対全員」でも、生きていく力を身につけるしかなかったから、そうなったというだけです。
でも私は、一人で強くなれる人ばかりではないことも知っています。だから『IWAKAN』を通じて悩んでいる人たちをつなげて、「一人ぼっちの辛い思いなんてしなくていい」ということを伝えたいんです。
コミュニティの力は、連帯の力。みんなで戦う方が強くなれる
−− IWAKANコミュニティの社会的な意義は何だと思いますか?
ジェンダーの悩みを抱える人たちは、身近な人に悩みを話せなかったり、話しても理解してもらえなかったりして「自分は一人ぼっちだ」と感じてしまいがちです。でも実際、ジェンダーで悩んでいる人はたくさんいます。ただつながっていないから、そう感じてしまうだけ。だからコミュニティを通じて連帯さえできれば、きっと「一人じゃない」と思えるし、戦えるようにもなります。
例えば、ある女性がパートナーとフェミニズムについて議論していたときに、「そんな考え方はおかしい」と言われたとします。そのときに『IWAKAN』を見せて「私と同じような違和感を持っている人はこんなにたくさんいるんだよ」と言ったら、そのパートナーは考え方を改めてくれるかもしれませんよね。
ちなみに『IWAKAN』の読者アンケートページは、私が特に気に入っている企画の一つです。偉い人やかっこいい人が考えていることだけではなく、あえて「うちら一般人が何を考えているか」を載せるのは、それが読者の力になると信じているからです。
−−「一人じゃない」と思えることによって、強くなれる人はたくさんいるのですね。
そうだと思います。そして一人だけではなく、みんなで戦えるようになることも、IWAKANコミュニティの存在意義の一つです。私は去年の7月、神道政治連盟国会議員懇談会で「LGBT差別冊子」が配布された件を受けて自民党本部前でのデモを呼びかけました。その冊子は「(同性愛は)後天的な精神の障害、または依存症」といった文章を含むものであり、到底許される内容ではありませんでした。
冊子が配られたのが水曜日、デモの情報を発信したのが金曜日、デモを実施したのが月曜日です。たった5日間で1000人以上もの人が永田町に集まった結果、私たちの行動は各紙に取り上げられ、大きな話題となりました。こうしたアクションを起こせたのは、『IWAKAN』を含むさまざまなコミュニティの力があったからです。
コミュニティの力は、連帯の力です。もちろん個人で社会を変えようとするのもいいけれど、一人で戦うよりもみんなで戦う方が力は強くなるはず。コミュニティにはそれを可能にするパワーがあります。
もちろん政治の面だけではなく、カルチャーの面でもコミュニティの存在意義は大きいです。最近はスケボーの世界にハイブランドが参入していますが、あれはスケボーコミュニティの文化が活性化し、存在感が高まった結果、社会のメインストリームに近づいてきた現象だと言えると思います。
コミュニティとは、参加している人たちの存在感を表すものです。コミュニティの活動が活発になると、そのコミュニティのための文化が世の中にどんどん生まれる。すると最初は限られた人たちだけのものだったカルチャーが、社会に影響を及ぼすものに変わるのだと思います。
−− IWAKANコミュニティに参加した後、ポジティブに変化したメンバーはいましたか?
はい、たくさんいました。一番印象に残っているのは、今から3年前に知り合った高校生です。その子はIWAKANコミュニティのメンバーと仲良くなるにつれて、どんどん個性を出すようになって。最初の頃は考えられなかったぐらいファッションや雰囲気が変わりました。
もちろんその子は『IWAKAN』の力だけで変わったわけではないと思いますが、そういう変化を見るのが私は大好きです。コミュニティには、自分と似たような考えの人に出会うことで「自分はもっと自分らしくしていいんだ」と気付かせる力があります。中には、IWAKANコミュニティでつながった人たちと新しいプロジェクトを始めた人もいます。ある人は以前『IWAKAN』にモデルとして出たことをきっかけに、去年仲間たちと雑誌を創刊しました。
私たちはいろんな取り組みをしていますが、『IWAKAN』だけで全てができるとは思っていません。だから、私たちを通じて新しいプロジェクトやメディアが増えるのは本当に嬉しいです。『IWAKAN』を起点に何かが始まる瞬間を見られることは、私にとって大きなやりがいですね。
Edoとして、アンドロメダとして。IWAKANを通じて伝えたい想い
−− ちなみにEdoさんは、プライベートではどのような活動をしているのですか?
カメラマンの仕事や、ドラァグクイーンとしてパフォーマンスの活動をしています。ただ、結局プライベートの活動もほとんど『IWAKAN』に結びついてしまっていて(笑)。私は『IWAKAN』で使う写真を自分で撮影したこともあるし、「Andromeda(アンドロメダ)」という名前でドラァグクイーンの姿でコンテンツに登場したこともあります。
かろうじてプライベートの領域にキープしているのは着物ですね。今日は洋服ですが、最近は週の半分くらいは着物で出社しています。
−− そうなのですね! 着物の何がEdoさんを惹きつけるのでしょうか。
たくさんありますが、一つはジェンダーレスなところ。今は男性用・女性用という区分がありますが、着物はもともとユニセックスな服なんです。他には、リサイクルできるので環境にやさしいところも好きだし、自分にとって価値あるものを比較的安く手に入れられるところも好きです。着物を買うときに一万円もあれば、有名な作家の手掛けた絹の着物が手に入ります。
さらに言うと、私が着物を着る理由には「反植民地主義」の側面もあります。だから日本にいるときはできるだけ着物を着るし、メキシコにいるときはメキシコの民族衣装も着るようにしています。
−− 最後に、今後IWAKANコミュニティをどんな場所にしていきたいですか?
みんなに「続けたい」と思ってもらえるような場所にしたいです。IWAKANコミュニティの運営は、基本的には真面目な仕事だと思います。あるテーマについてきちんと学んでもらうことを目的に、企画を考えることが多いので。
でも運営側が「今日はこんな学びを持ち帰ってもらおう」とシリアスなことばかり考えていると、参加者が楽しめなくなってしまうと思うんです。つい先日、このオフィスで「卓球しながら飲みましょう」という趣旨のイベントをやったのですが、それは何の目的もなくただ楽しい時間を過ごす時間も、コミュニティにとって必要だと思ったからです。
もちろんシリアスさが必要な場面はあるけれど、「ここで時間を使いたい」と思い続けてもらうためには、やっぱりIWAKANコミュニティが楽しい場所であることが大切です。
IWAKANは私にとって、人生そのもののような存在です。これからも信頼し合える仲間と一緒に、ジェンダーで悩む人たちが「一人ぼっちじゃない」と思える場所を作り続けていきたいですね。