「それでも移動が必要な方に、クルマ無料で貸します」コロナに即対応したあの最速キャンペーンはどうして実行できたのか?NEWPEACEが支えた舞台裏
プロジェクトヒストリー
2020.07.31
- #ブランド開発
目次
コロナウイルスが猛威を奮って政府による「緊急事態宣言」が発表されたのは、2020年4月7日のことだ。
もう随分と前のことに感じられるが、StayHomeと声高に叫ばれ、あらゆる移動に自粛が求められたその日、医療従事者をはじめとする“移動を必要とする人々”がどれほど不安に狩られたかは、言及するまでもない。
そこでいち早く動き出した企業が、中古車事業ガリバーで知られる株式会社IDOMだ。同社は緊急事態宣言発表からわずか8日後の4月15日、移動を必要とするすべての人に向けて、中古車の無償提供を開始した。
大きなプロモーションを用意する暇もなくリリースされた「新型コロナウイルス対策クルマ支援」には、受付開始からわずか24時間で1万件を超える応募が殺到した。
※news everyで取り上げられた一コマ。
コロナ禍到来からかつてないスピード感でのサービス提供。その舞台裏では、どのようなことが起きていたのか。そこにはIDOMの意思決定を支えるNEWPEACEの言語化力と、確かなクリエイティビティがあった。
左:山畑直樹さん(株式会社IDOM #SaveMoving ガリバークルマ支援プロジェクトリーダー)
右:田中佳祐(NEWPEACE/プランナー・ディレクター)
コロナ禍で働く意味を見失いかけていた社員のために──『ガリバークルマ支援』開始前夜
── 移動が必要な人のために、全国のガリバー店舗で車を無償で貸し出す『ガリバークルマ支援』。この大規模な決断に踏み切るまでの経緯を聞かせてください。
山畑直樹(以下、山畑):今回の『ガリバークルマ支援』は、もともとは僕が担当していた車の定額利用サービス『NOREL』のサービスモデルを応用したものなんです。
※NOREL:2016年8月リリース。ガリバーが保有する150種以上の車から自由に選んで乗り替えられる月額制(サブスクリプション)サービス。
山畑:『NOREL』の新たなサービスモデルとしてリリースしたのが、車を一度も持ったことのない方のための入門サービス『マイカートライアル』だったのですが、この事業企画パートナーとして、以前からNEWPEACEさんに関わってもらっていました。
※マイカートライアル:2020年2月リリース。車の購入を検討している人や一時的に車を必要とする人向けに、1か月から色んな車を試すことができる月額制(サブスクリプション)サービス。
田中佳祐(以下、田中):NORELのビジネスモデルをどう捉えなおすか、それをどのように世の中に伝えていくか、コミュニケーション戦略分野で以前から二人三脚していたことが、コロナ禍対応をスムーズに行えた一因になったと思います。
──『NOREL』『マイカートライアル』のサービスモデルを応用したのが『ガリバークルマ支援』とのことですが、どう繋がったのでしょうか?
山畑:2020年3月末に、『マイカートライアル』のリード獲得を目的に、三菱地所さんと協業で丸ビルの下に『0円CarRent』という店舗をオープンさせたんです。0円でいろんな車を貸し出して、3泊4日まで旅行や用事等、好きに使ってもらうサービスなんですけど。
田中:ちょうどそのリリースが緊急事態宣言が出る直前のタイミングだったんですよね。
山畑:そう。結局、その店舗はオープンして2日で閉店しなきゃいけなくなりました。そのとき僕は、コロナという大波に逆らえない無力感と、いつ再開できるんだろうっていう先行きの見えない閉塞感で、すごく不安になってたんですよ。
山畑:そしたらちょうど4月の頭に、うちの社長から連絡があって。『店舗を閉めている今も現場を守ってくれている社員たちが、自分たちは一体何のために働いているのかと不安になっているはず。現場の社員たちが自信をもって働けるようなサービスを作れないか』ってオーダーをもらったんですよ。そして、そのサービスをコロナで困っている人たちに届けられないか、と。「やります」と二つ返事をして、翌日に田中さんに連絡しました。
田中:土曜日の朝からドトールで企画書を書いたのは覚えています。(笑)
※実際の企画書抜粋(一部変更あり)
山畑:田中さんは提案スピードが本当に速くて、翌日の日曜日には運用フローやスキームを整理していましたね。本業の中古車販売買取の業績もどうなるか見えない時期だったので、莫大なコストのかかる企画を出すのは怖いところもあったんですけど、社長に提案したところ、即決してくれました。
外出自粛ムードのなかで、移動する手段を提供する会社ができることを考える
──では、実質3~4日で『ガリバークルマ支援』の内容を作り上げたのですか?
山畑:そうですね。スピード感はめちゃくちゃ意識しました。1日何回も田中さんに電話して。
田中:山畑さんはZOOMを電話みたいに使うんですよ。(笑) 突然リンクが送られてきて、5分後話せます? みたいな。IDOMは結構大きい会社なのに、いい意味でベンチャー気質というか。
山畑:ZOOM、開きっぱなしでした。(笑) いろいろ難しい部分があったから、田中さんに逐一相談していたんですよね。
①社員が誇りを持てるようなサービスを作りたい、かつ、②世の中の困っている人を助けたいという2つの目的を両立させながら、さらに巡り巡って、それがIDOMのブランディングに寄与する設計にしなければならなかったので。
田中:緊急事態宣言直後で非常にセンシティブなタイミングだったので、何をやっても叩かれそうな空気だったこともありますね。
山畑:そうなんです。移動しちゃダメ、外出自粛、という流れの中で、我々は移動する手段を提供する会社なので、すごく矛盾する悩みがあって。
田中:それで言うと、山畑さんはいわゆる「商品目線」ではない人なんですよね。もう少し俯瞰的に、自社のサービスを見ているというか。
山畑:マーケティング的な視点で考えることはもちろんありますが、今回の『ガリバークルマ支援』に限って言うと、世の中に対して上から目線になっちゃいけない。世の中の人と同じ目線でいなきゃいけないし、かつそれがまっすぐ伝わる表現じゃないといけないとは思っていました。
───それが今回の『不安と戦うすべての人に安心な移動を』というコピーや『#SaveMoving』のハッシュタグに繋がったんですね。
山畑:そうですね。もともと、『NOREL』のサイト流入の分析や、契約してくださったお客様の職業を見て、「どうしても移動せざるを得ない人たちがいる」というニーズは感じていました。そこで田中さんが、医療従事者メインに車を貸し出したらいいんじゃないかというコンセプトと、『#SaveMoving』というキーワードを出してくれました。
社内スローガンからサービスを代表するハッシュタグへ──#SaveMoving誕生の背景と役割
──SNSハッシュタグとしても話題になった『#SaveMoving』というワードは、とてもまっすぐ世の中に届いたように思います。どのような経緯で生まれた言葉なのでしょうか。
田中:『#SaveMoving』は、もともとはIDOM社内のスローガンとして考えたものだったんですよ。社外に出すことは、最初考えていませんでした。
山畑:そうそう。今回の『ガリバークルマ支援』は、利益やマネタイズを度外視して思いっきり利他的に振り切った施策だったので、まずは社内から共感で巻き込んでいく、という考え方がすごく重要でした。
──『#SaveMoving』という言葉自体は、田中さんから最初に出たものだったのですか?
田中:そうですね。長期的にNOREL事業やガリバー事業全体に還元できるブランディングを考えたとき、おのずと打ち出すメッセージは決まってくるんです。最終的に、お客さんが車に乗りたいなと思ったときに、じゃあガリバーを使ってみようかな、というマインドになればいい。そういう割り切りはあったかなと思います。
山畑:実際、対面の会議をして社内を巻き込むことができない状況だったので、社内の共感を得るためのクリエイティブや言葉を作ってもらえたことは、すごくありがたかったです。
NEWPEACEさんの強みはそこだと思っていますね。
田中:まずは社内を一つにすることが大事だったので。それを意識することによって、「『#SaveMoving』というインナースローガンがあるからこそ移動の支援をやっているんだ」と社員の皆さんが胸を張って働ける仕掛けにできたかなと思います。
完全リモートワーク体制で1万件を超える応募に対応──#SaveMovingが実現した社内結束
──『ガリバークルマ支援』のHPがリリースされてから、わずか24時間で1万件を超える応募がありました。当時の状況はいかがでしたか。
山畑:まずはLINEで受付をしてたんですが……チャット対応が一瞬でパンクしましたね。(笑) もともと急増で集めた10数名のプロジェクトメンバーだったんですが、社内で沢山の人が自分の業務止めて協力してくれて最終的に100人くらいになりました。そのときにはもうリモートワーク体制に移行していたので、全員でZOOMに入ったりして。1か月以上ずっとリモートで続けて、最近、初めて対面で初期のプロジェクトメンバーに会って、決起会をしました。
田中:遅い。(笑) ほぼ打ち上げじゃないですか。
山畑:本当にそうです。(笑) でも、これから車の返却とか、まだまだやることはたくさんあるので。でも、リモートワーク体制の中でこれだけ結束して動けたのは、『#SaveMoving』というインナースローガンを中心に「なぜこれをやっているか」っていう目的・理由を社内でしっかりおさえていたからですね。
田中:まれにみる団結力を育めたプロジェクトでしたよね。リモート状態でもみんな同じ視座をもって、それを励みに頑張れるみたいな。そういう意味でもすごくよかったですよね。
──プロジェクトに参加した社員の皆さんの反応はどうでしたか?
山畑:みんな楽しんでましたよ。もうやりたくないです、って言う人は誰もいなくて。ちょうど先日、別業務で地方のガリバー店舗に行ったんですけど、そこのスタッフが今回のプロジェクトで親から褒められたんだそうです。いい会社入ったねって。
田中:おお~、それは素晴らしい。
山畑:嬉しかったですね。これが一番の目的だったんですよ。社員が自信を持って、コロナ禍の状況でもいきいきと働けて、お客さんのためになる仕事ができるっていう。
田中:それは良かったです。リモート時代だからこそ、直接的でなくても繋がれるワードやデザインがより必要になっているのかもしれないですね。
「マイカー」から「マイカーライフ」へ。IDOMとNEWPEACEが提供する新たな「クルマのある暮らし」
──まだまだこれからやることがたくさんある状況だと思いますが、今後の事業イメージはどのように描いていらっしゃいますか。
山畑:今回は本当に困ってる方への支援ができた一方で、やはり車の台数不足もあり、ちょっとした用事で使いたいというニーズのお客様にはまだまだ不十分でした。たとえば、実家に帰りたいけど新幹線が使えないとか、引っ越しがあるとか、ご両親の介護があるとか。そういった短期利用のニーズは実際かなりありました。なので、いったん閉店していた『0円CarRent』は再開しようと思っています。
──緊急事態宣言前に丸ビルでオープンさせていたやつですね。
山畑:あと、今回の『ガリバークルマ支援』を見ていろんな企業の方々が声をかけてくださりました。今、そのうち一つの企業さんと一緒に進めているのが、『0円HOTEL』という施策です。これも田中さんに手伝ってもらっているんですけど。
田中:GOTOトラベル施策との連動のため、実施タイミングは見直し中ですが、ガリバーの車を使った安全な移動で宿泊施設まで行って、1泊2日まで無料にする企画です。あれも楽しみです。
山畑:ほかにも、「車×コミュニティ」というテーマで、いろんな自治体や企業と組みながら、移動の支援やビジネス化に取り組んでいこうと思っています。「なるべく安全に、どうしても行きたかった場所や人のもとに行きたい」という生活者の気持ちに応えた結果、いろんな方が誠意を持って協力したいと言ってくださっています。本当にありがたいです。
──『#SaveMoving』の動きがなければ、それらのコラボレーションもありえなかったわけですよね。
田中:そうですね。もともとは社内向けのメッセージだった『#SaveMoving』というビジョンが、おのずと世に出て、いろんなパートナーさんとの間でも機能していった好例だと思います。
山畑:ビジョンの話で言うと、NEWPEACEさんには、1か月前に分社化したばかりの『NOREL』のビジョニングもお願いしています。
田中:『NOREL』はIDOM CaaS Technology(イドム カース テクノロジー)という子会社になりました。「NOREL」事業と、個人間のカーシェアサービス事業「GO2GO」の2つを軸に、色んな「マイカーライフ」を提供する会社として見せていけると思っています。
──「マイカー」から「マイカーライフ」へというコンセプトにはどういった思いがあるのでしょうか。
田中:「マイカー」という言葉の再定義というか。車を所有するだけが「マイカー」ではないと思うんですよね。『NOREL』で3か月乗る車だって、その人にとっては「マイカー」なわけで。
山畑:『NOREL』は色々と紆余曲折があったサービスですからね。最初は車所有者向けの車乗り換え放題サービスだったんですが、それだと市場が広がらない。だから捉え方を変えて、「車をまだ持ったことがない人のための車入門サービスにしよう」という田中さんのアドバイスから生まれたのが『マイカートライアル』ですし。
田中:捉え方を変えているだけで、サブスクリプション型の車利用サービスっていう根本は変わってないんですけどね。でも、このタイミングで打ち出すメッセージとしては最適だと思っています。中古車販売買取のガリバーだけではない、カーライフそのものをハックする会社としてIDOM全体の指針ができたんじゃないかなと感じています。
山畑:事業って、どう進めるかのHow的な話と、何をやるかっていうWhat的な話がありますが、それ以上に「なんでその山を登るか」っていう、Whyの話が重要なんですよね。それがわかっていないと、事業は走り続けていけない。だからWhyにあたるビジョンの部分からしっかり落とし込んでくれるNEWPEACEさんの仕事はこれからもすごく求められてくると思います。
田中:我々としては、意見を柔軟に聞いていただけるIDOMさんだからこそ、円滑にプロジェクトが進んでいるなあと感じます。そういう社風も含めて、発信するものがうまく世にハマれば、もっといろんなことができるでしょうし、今後も可能性は広がっていくかなと思いながらお手伝いさせてもらっています。
誰もが不安と闘う非常事態の中、一人ひとりの「普段の生活」を守ろうとしたIDOM。
NEWPEACEはその想いをいち早く言語化し、#SaveMoving という言葉でIDOM社全員を同じ方向に向けて、世の中に多くの共感を得るクリエイティブを短期間で生み出していった。
パートナーの想いを言語化し、企画から社内を巻き込み、新たなクリエイティブを生み出す。NEWPEACEは独自のやり方で、パートナーとなる企業と一緒に走り続けていく。
執筆・編集:広瀬唯、カツセマサヒコ
撮影:きるけ
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