インドを旅して考えた、日本の自動車産業の次とは
トレンド
2025.07.24
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インドに行ってきた。ひとつの目的は、クンブメーラという4億人が集まる世界最大の祭り。例えるならば、原宿の竹下通りの人混みが、街全体に広がってる感じで圧倒的だった。さすが人口世界一。人の数はエネルギーである。

ガンジス川へと向かう行列が何kmもつづく
旅するといつも思うが、異国の地で日本企業を見ると誇らしい気持ちになる。この気持ちはなんなのだろう。インドでは、TOYOTA、HONDA、DAIKIN、KOMATSU、UNIQLO、PLAY STATION、SUNTRY、ASICS、CANONといったブランドを街で目にした。彼らは日本代表として、日本という国の価値を高めていると思う。
そんな中でも、インドではSUZUKIの浸透ぶりが圧倒的だった。創業者である鈴木修氏のリーダーシップのもと、1982年にいち早くインドに参入し、市場そのものを作っていった。現在はシェアは全体の40%超え。肌感では街を走っている半分以上がSUZUKIの車だった。現地で知り合ったインド人も「新しいSUZUKIの車を買ったんだ!」と嬉しそうに自慢していた。
ただ、15年ほど前にアジアを放浪していた時に比べると、日本ブランドの存在感は少なくなっているように感じた。おそらく家電やその広告で、PanasonicやSONYなどのブランドを見なくなったからだろう。日本が急激な人口減少によって国際競争力が落ちている中、今のうちに外貨を稼げる新たな産業を何かフォーカスして育てていく必要性を改めて感じた旅になった。(やはりソフトウェア領域は難しいなとも)
近年の成功例は、韓国発のK-POP、K-CULTUREだろう。元はと言えば、1997年のアジア通貨危機を受け、金大中大統領が「文化産業振興基本法」を制定し、国家戦略として映画・音楽・ゲームなどの産業育成。2000年代から積極的に韓流コンテンツを輩出し、2010年代には海外での韓流イベントを積極的に仕掛けた。「Hallyu 3.0」戦略(韓流の新時代)が功を奏し、現在の世界的ムーブメントにつながっている。
自動車に次ぐ日本の勝ち筋とは
日本はどうだろうか。ドン・キホーテの創業者である安田隆夫氏は、「日本の食」は日本における第二の自動車産業になり得ると提言している。日本の農林水産物と食品の輸出額が2021年に1兆円を突破し、2030年までに5兆円への拡大を目指している。海外での日本産品の販売業者としての実感から、中・長期的にはその数倍のポテンシャルを日本食材は秘めていると。
もちろんゲームやアニメをはじめとしたコンテンツ産業は5兆円を超え、2030年には10兆円規模に近づくと言われる。インバウンドをはじめとした観光産業にも大いに可能性がある。2030年の訪日外国人は6000万人、その消費額は15兆円が目標だ。空港のキャパシティなどの問題はあるが、いずれは1億人に上るだろうと言われている。
今回、インドというエネルギー溢れる15億人の国を肌で感じれば感じるほど、安い労働力を背景とした機能的なモノの生産力で勝つのは難しいと感じた。文化を背景とした、コピペしづらい日本にしかない価値を売っていく必要がある。それが歳をとっていく成熟国の宿命ではある。
最も想像しやすい日本の勝ち筋は「グルメとエンタメ」だろう。観光立国として様々な食体験や、観光地/テーマパークなどでファンを増やしながら、付加価値の高いブランドやコンテンツを輸出していく。アニメはもちろん、近年、Round1やゼンショー、くら寿司、ドン・キホーテなどが海外展開うまくいってるのは、その傾向を表していると思う。
ただ、それだけで日本経済を支える産業になっていくのか?もっとインフラに近い産業を担う必要があるのではないか?
「グルメとエンタメ」が、日本の成長可能性であることは確信しているが、それだけではどうしても観光や付加価値領域に閉じてしまう。自動車産業に代わる外貨を稼ぐ産業になるかというと、まだ時間はかかるだろう。そこでプランBを考えてみたので仮説を展開してみたい。
「クリーン産業」という可能性
今回インドで痛感したのは、日本とは逆に、世界は人口が爆発的に増えていること。人口増加による課題に溢れているということだ。
そんな中で日本に求められるのは「クリーン産業」の輸出なのではないかと思う。クリーン産業とは、空調・水衛生・ゴミ処理などの生活インフラ。その技術とノウハウこそ、日本が世界をリードできる分野なのではないかと。
1.空調
例えば、インドでは人口とともに自動車やバイクが増えまくっているわけだが、そのため空気はとても汚く、気候変動も加速している。だからこそ空調メーカーであるダイキンは、世界でのシェアを伸ばし続けている。インド市場でも2010年に2%未満だったルームエアコンのシェアを8年間で17%まで高め、市場トップに躍進していた(すぐにデータが見つからなかったが、今はもっと伸びているだろう)。
世界のHVAC(暖房・換気・空調)市場は2022年時点でおよそ1.4兆ドル規模とされているが、特にアジアやアフリカといった人口増が起きる国々では、冷房と空調は需要が爆発していくに違いない。そこにチャンスがある。
2.水衛生
水衛生周りも課題が大きい。インドでは水を口に含むこともできず、手を洗った後も消毒しなければならない。日本企業の浄水技術や下水処理技術があればその状況は明らかに改善するはずだ。またトイレやシャワーも、ホテルですら清潔感を感じられず、日本のウォッシュレットと現地のトイレシャワーでは体験格差が激しい。世界は確実にTOTOやLIXILを求めている。
そもそも日本は高度経済成長期に爆発する人口に合わせて、公衆衛生や環境汚染を克服してきた。事実、日本の健康寿命が一気に伸びたのは、水道局が整備されて以降であり、それらの経験を説得力に変えて、日本式健康モデルとして輸出していけるはずだ。
3.ゴミ処理
そしてゴミ問題。インドは道路もゴミだらけで、とにかく汚かった。廃棄物処理・リサイクル市場は1兆ドル市場と言われるが、そこに日本のクリーンを輸出するチャンスがある。例えば、日立造船はゴミ焼却発電プラントのInova社を傘下に収め、インドで州初となる焼却発電施設を受注したという。ここに日本のリサイクル技術なども組み合わせれば、人口とともに増え続けるゴミ問題を解決できるかもしれない。
国内に目を向けても、環境産業の市場規模は約123.7兆円まで拡大するとの推計があり 、経済の重要な柱として期待されている。アジア新興国のインフラ需要、欧米の脱炭素需要という二つの巨大市場を相手に、日本企業は高度な技術力と信頼性を武器に戦えるのではないか。というのが仮説である。
あらゆる国は、雑多から洗練へ向かう
もちろん国家戦略として掲げるなら、日本の文化的背景や国際的イメージも活かして、オールジャパンとしてクリーン産業立国を売り込んでいけるといい。W杯などではよくゴミ拾いする日本人の姿がニュースになるし、コンマリのようなコンテンツが出てくるのも、宇宙産業のような最先端の分野でもアストロスケールのようなゴミを切り口にした企業が出てくるのが実に日本らしい。何よりもこれは、日本に観光で訪れるすべての外国人が感動するポイントなのではないか。
あらゆる国は、文明の進化とともに、雑多から洗練へと向かう。喧騒を避け、静けさを求める。不潔を嫌い、清潔さを欲する。そこに、いち早く成熟国になった日本のチャンスがある。
世界広しといえども、日本ほど綺麗で安心して暮らせる国はない。そのブランドイメージと、支えている技術や仕組みを「クリーン産業」として広めていく。クリーンというのは、新興国から成熟国まで幅広く求められる普遍的な価値である。これこそ、日本ならではの勝ち筋であり、世界におけるポジショニングなのではないか。そんなことを、インドでもらった腹痛を恨みながら考えてみた。
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