スマホ断ちのコミュニティ!?オンラインの世界から距離をおくラッダイト・クラブのコミュニティ
トレンド
2023.06.20
- #コミュニティ
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ラッダイト・クラブとそのコミュニティの活動
昨今スマホやインターネットの普及によりオンラインコミュニティでの活動が活発になり、アクセスが自由なコミュニティに居場所を見つけることができる人も多くなりました。しかし、いつでもどこでも繋がれるというオンラインの利点が逆に息苦しくなり、10代の若者にとって負担に繋がってしまったのが、このコミュニティの発端です。
ラッダイトという聞きなれない名称、これは19世紀初頭、イギリスの労働者が抗議活動として機械を破壊した活動に由来しています。その活動家であったネッド・ラッドにちなんで名付けられたグループのことで、テクノロジーの変化に反対する人々を表すのにもよく使用されています。
ラッダイト・クラブ発足のきっかけは、ある高校生の自粛生活下のSNS疲れでした。New York Timesの記事によれば、新型コロナウイルスが急速広まり自粛期間が始まった中、ニューヨークの高校生でありラッダイト・クラブの立ち上げメンバーのローガン・レーンは、SNSの利用に問題を抱えるようになっていた、と言います。
彼女は、「(自分が)完全に(SNSに)消費されきっていた。いい写真が撮れたら投稿せずにはいられなかった。ネット上では何も気にしていないふりをしていたけど、本当は(投稿を)気にしていて全部見ていた」と言います。そして最終的には、インスタグラムでの自分の完璧なセルフィーなどはもう1枚も見たくないというほどに疲れ切ってしまい、アプリを消したそうです。「でも、それだけでは足りなかった。それで、ケータイを箱の中にしまったの」と語っています。
ラッダイト・クラブを立ち上げたローガン(写真:Scott Rossi/The New York Times)
Business Insiderでも、自称「スクリーンジャー(=スクリーンを見る世代)」として自撮りをしたりSNSをスクロールしたりしていた高校生のローラ・シューブも、友人がスマホを永久に捨てたのをきっかけに、iPhone をガラケーに変えた、と語っています。
彼女たちは現在、地元の図書館で毎週日曜日に集まるラッダイト・クラブの一員となっています。このクラブのルールは ただ1 つだけ、「その場でスマホを使用しない」ということです。集まったメンバーは全員、デバイスの電源を完全に切り、その場でお互いの時間を共有します。
読書をする人が大半で、そのほか絵を描く人もいます。日記をつける人もいれば、目を閉じて周りの音を聞く人もいます。時にはメンバーで関心のある芸術家について議論もします。会合では、アプリやゲームに時間を奪われることなく、自分たちの周囲の世界を探索し、体験するのです。
その他の高等学校でもラッダイト・クラブができ始めており、ラッダイト運動は広がってきているようです。
スマホから離れた時間を持つ人たち
このコミュニティが成立し、さらに拡大している理由は何でしょうか?それは、スマホから離れた「オフ」ラインでの繋がり、そして時を過ごすことの大切さを、彼女たちが発見したからではないでしょうか。
ラッダイト・クラブのメンバーの一人は、New York Timesで彼女のコミュニティの会合への姿勢をこう語っています。「雨でも晴れでも、たとえ雪の日でも、毎週日曜日になると私たちは集まります。お互い連絡は取らない。だからこそ、来なくてはいけないんです。」
オンラインであれば直前にキャンセルできるような場合でも、オフラインはそれが出来ません。その不便さが、仲間への責任感と結束を生んでいるようです。
また、ローラはBusiness Insiderの取材で、彼女と友人の多くはインスタグラムを既に辞めており、チャットなどのテキストメッセージよりも電話を好んで使っている、と語っています。そしてスマホを手放して以来、創造的に考えるためのスペースが増えたと言います。読書をする時間も増え、集中力も高まったと語っています。
関連して、スマホ使用を制限したグループが、幸福度が上がり、健康的なライフスタイルに向上したことを証明した最近の実証研究があります。米国心理学会のAPA PsycNet が2023年に発表した「スマホ使用の『スイートスポット(=最適な立ち位置)』を見つける」では、ドイツでスマホの使用を完全に禁止したグループと、毎日のスマホの使用を 1 時間削減したグループの、2つのグループを観察し、幸福と健康的なライフスタイルへの影響を比較しています。
その結果、スマホ使用を制限または禁止したどちらのグループも、生活の満足度と身体活動の増加が見られました。さらに、ほとんどの効果は、禁欲グループよりも制限グループの方が有効で、制限グループは、4 か月間にわたってより安定的で持続可能な効果が見られたそうです。
https://www.deseret.com/23583331/teens-smartphones
この研究からも分かる通り、スマホ使用を制限または禁止した人たちは、主観的に幸福度が上がり、健康的な生活を暮らせるようになるようです。活動時間内はスマホを触らないというラッダイト・クラブが、この傾向に相関していることは明らかでしょう。
オンラインは即時にアクセスでき、繋がりが作りやすいという利点があります。さまざまなプラットフォームによってオンラインコミュニティの活動はますます活発になっていますが、それによって居場所を見つけている人の幸福もある一方で、常時繋がるオンラインコミュニティで、自分の見られ方、関わり方に疲れてしまうような「オンラインコミュニティ疲れ」といったことも増えているのかもしれません。
そのような中において、ラッダイト・クラブのメンバーのように、オフラインでの繋がりに、幸福感や健康的な視点から価値を再発見している人たちが増えているのでしょう。
コミュニティに属することで、スマホ離れを習慣化させ、主張を成立させる
ラッダイト・クラブの本質は、スマホを常に持ち歩く現代、スキマ時間や退屈な時にスマホをいじる習慣を断ち、インターネットから離れた時間を持つよう思い出させるきっかけを作ることです。このクラブではスマホの所持は個人の自由ですが、活動時間にはオフにするという決まりがあります。この本質は、私たちがパソコンやスマホで行う学業や仕事から一休みし、友人や家族との交流を楽しむ時間を与えてくれます。そして周りの自然や景色を慈しみ、自分のために時間を割く習慣を身につけることを教えてくれます。
そしてそれをコミュニティとして続けていくことの価値は、一人では誘惑や中毒に負けてしまうことがあっても、継続的に集団となって続けていくことにより、それが個人の習慣として定着させてくれるものだからではないでしょうか。そもそも、コミュニティが成立する要素には、「コミュニティ内での目的が一致していること」があると思いますが、ラッダイト・クラブでも「オンラインから離れた時間を持ち、ウェルビーイングな生活を送る」という目的が彼らの中で一致してるからこそ、一人では達成できないような目標も、コミュニティで共有されていることによって、メンバーに励まされ、インスパイアされることで達成できる。まさに、個人の力がコミュニティによってエンパワメントされることに繋がっているのは、コミュニティに属する価値そのものではないでしょうか。
さらにコミュニティの力によって、個人がオンラインから離れた時間を持ち続けることは、私たちがスマホなしでいかに思考を生み出す能力があるかを思い出させてくれることでもあります。多くの場合、人は文学、芸術、そして瞑想などで得られる美術を、自分自身と向き合う時間で創造しています。それを現代人の多くは持つことができず、インターネットの存在や頭脳に依存しているのです。また、SNSへの投稿は、他人と比較して羨ましさを感じてしまったり、自分の投稿に十分な「いいね!」が得られないと満足できなくなるという傾向がみられます。しかし本来は、自分自身がそれに左右される必要はないはずです。
ローラのBusiness Insiderでの言葉で言えば、「仲間の十代の若者たちに最も重要なメッセージは、自分自身を知り、自分の周りの世界を探索することに時間を費やしてください、ということです。それは高価で小さな箱の中のものよりも、遥かに充実していて、遥かに現実的です。」と彼女は伝えています。
https://gim.me/personal/mindset-shift-for-joy/
また、スマホやSNSのアカウントを持つことが当然のようになっていますが、たとえそれとは違う価値観をもったとしても、コミュニティに属することで、目的を同じにする仲間を見つけられ、自分が安心できる居場所が確保でき、そこに存在していいという幸福感を得られるのだということを、ラッダイト・クラブの事例からは感じることができます。
オンラインとオフラインのコミュニティの交差点へのチャレンジ
ラッダイト・クラブや実研究から、デジタルミニマリズムとも言われるインターネットから離れるコミュニティは、今後も増加していく可能性があります。特にデジタルネイティブのZ世代やα世代は、デジタルに慣れすぎているからこそ、画面を通さずに見る世界に、つながりや創造的な価値があることを再発見し始めているのかもしれません。ラッダイト・クラブのメンバーは、オフラインでのつながりと時間を大切にし、その重要性を再発見しました。
アクセンチュアが発表したAccenture Life Trends 2023でも、今後のトレンドとして、オンラインコミュニティを起点に充足されていないニーズの理解を進め、オンラインに留まらないオフラインの体験価値を創出することが、コミュニティを運営する企業やブランドにとって重要となってくると示唆されているように、オンラインだけでなく、オフラインにおける有意義な体験をいかに作っていくか、ということもコミュニティ作りの視点で欠かせなくなってくるでしょう。
オンライン、オフラインどちらでも、自分の居場所としてのコミュニティに属せるようになった現代。それぞれの特性や利点を活かしながら、個人の幸福や健康を増幅させるようなより良いつながりの場を創出することがコミュニティ運営者にますます求められています。
NEWPEACEでは、そのようなコミュニティメンバーのエンゲージを高める施策やコミュニティ運営にまつわる様々な課題に取り組んでいます。
https://www.goodnet.org/articles/these-teenagers-are-powering-down-their-smartphones1
https://www.deseret.com/23583331/teens-smartphones https://enloenews.org/5612/opinion/5612/
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