男鹿まち企画|秋田県男鹿市、まち全体のクリエイティブプロデュース
CHALLENGE
OUTCOME
急激な人口減少に直面する秋田県男鹿市。この地でクラフトサケブランドを起点にまちづくりを展開する「稲とアガベ」と、全国数拠点で地域活性化を仕掛ける「NEWLOCAL」の2社がタッグを組み、2023年に「男鹿に新たな機運と人の流れを創出する」というチャレンジを掲げた。NEWPEACEは、クリエイティブパートナーとして参画。NEWPEACEは2024年からの3年間にわたり、宿泊施設のない男鹿駅前エリアに新たにオープンしたホテルのクリエイティブ開発、旧鉄工所を活用した複合商業施設のコンセプト・ロゴ制作、ウォーカブルなまちづくりのための回遊施策など、継続的に関わり続けている。
なまはげ発祥の地として知られる秋田県男鹿市。半島の大部分を国立公園に指定されるほど自然豊かな土地ながら、急激な人口減少と高齢化が問題視される「消滅可能性自治体」として、地域再生が急務とされている。
そんな男鹿市で、2021年にクラフトサケブランドとして起業したのが「稲とアガベ」。酒業界でも注目されるクラフトサケの展開に留まらず、創業から現在に至るまで、わずか4年半で醸造所や蒸留所、ラーメン屋、スナック、ホテルなど、10拠点を展開し、急速に男鹿の活性化を仕掛けるプレイヤーだ。タッグを組むのはスタートアップ企業「NEWLOCAL」。空き家や遊休資産などの不動産開発を中心としたまちづくりを行い、男鹿市を含めた5拠点でビジネスを創出・展開する。この2社が出会い、男鹿の活性化に特化した合弁会社「男鹿まち企画」を設立。「男鹿から未来を醸す」をビジョンとして掲げ、次世代にまちを引き継ぐための施策を行っている。拠点増加を見据え、まちの総合的なブランディングを考えるこのタイミングで、地域固有のビジョンを打ち立てることを得意とするNEWPEACEがクリエイティブパートナーとして参画した。取り組みの第一弾は、男鹿半島沿いに残された、旧港湾会館のリノベーションだ。
まず現地に足を運び、まちを歩く中で、机上では見えてこない「男鹿らしさ」の輪郭を掴むところからプロジェクトは始まった。男鹿は、北前船が行き交う江戸時代より、多くの港湾労働者が働き、まちの産業発展に寄与した歴史がある。彼らが寄宿舎として過ごした建物を、新たな客層を呼び込む宿泊施設として生まれ変わらせるべく、デザイン事務所CYANを招聘し、ホテルのネーミング・コンセプトに加え、ホテルロゴを制作した。

ホテルコンセプトと男鹿半島を型取ったロゴデザイン

エントランスとロゴのネオンサイン

旧港湾会館の看板をリノベーションして制作した看板

ルームナンバーは一室ごとに異なるデザイン

サウナ等のサインも制作
次に取り組んだのが、男鹿駅前エリアに残されていた旧鉄工所を再生し、食を中心とした複合商業施設として生まれ変わらせるプロジェクトである。
かつてものづくりの現場だった建物には、鉄骨の構造や広い作業空間、無骨な素材感など、男鹿の産業を支えてきた記憶が残されていた。NEWPEACEが目指したのは、その歴史や空間の個性を消すのではなく、受け継ぎながら新しい場へとひらいていくこと。地域のクラフトな食を起点に、観光で訪れる人も、地域に暮らす人も自然に立ち寄り、男鹿の食、人、文化が交わる新たな拠点として構想した。

施設外観
生まれたネーミングは「おいしいファクトリーCADAR」。
「CADAR(カダール)」は、寄り集まる、仲間になるという意味を持つ秋田の方言「かだる」から着想した。稲とアガベがつくるクラフトジンや、ピザをはじめとする、地域のクラフトな食を起点に、人や体験が交わり、新しい価値が生まれていく交流拠点としての期待を込めた。
地域の人が日常的に訪れ、外から来た人も自然に立ち寄る。食事をする、買い物をする、誰かと会う、少し滞在する。最終的には、人で賑わうひらかれた拠点となっていく。その意思を、ネーミングとコンセプトに落とし込んだ。


男鹿らしい、年齢や性別の垣根を超えて集まれる場所を目指す
ロゴは、旧鉄工所の無骨な雰囲気に似合いながら、幅広い層に親しまれるデザインを目指した。拠点内に入るピザ屋、クラフトジン、クラフトサケ、物販エリアなど、多様なコンテンツを内包できるトーンを設計。色味は鉄骨のカラーから着想し、「CADAR GREEN」と定義。

旧鉄工所の鮮やかな骨組みはそのまま活かし、ロゴのカラーと接続
ステンシル表現によって工場らしさやクラフト感を表現しつつ、ひらがな、カタカナ、アルファベットを同等に扱うことで、親しみやすくキャッチーな印象に仕上げた。ロゴに加え、建物正面の看板やフラッグ、各種サインも制作。旧鉄工所の空気感を活かしながら、施設全体のコミュニケーションを設計した。

旧鉄工所のサインは残したまま、新たな看板を設置

窓4面にもサケやピザなどのモチーフでグラフィックを入れた

入口横のポールにはためくフラッグ

建物内サイン
複数の拠点が生まれる一方で、プロジェクトはより広域なまちづくりへと展開した。次の課題となったのは、まちに増えつつある拠点をどのように歩いて巡ってもらうかだった。
男鹿駅前には、道の駅おが「オガーレ」や、稲とアガベの各拠点、まちに点在する飲食店や商店がある。しかし、初めて訪れる人にとっては、どこを歩けばよいのか、どんな楽しみ方ができるのかが見えづらいという課題があった。そこでNEWPEACEは、まちなかエリアへの回遊性を高める施策として、15分で歩ける散歩ルート「なまはげさんぽみち」を構想した。

散歩マップには、なまはげについて知れる文章を掲載

15分の散歩コースを示すマップ
ルート設計において着目したのは、男鹿を象徴する「なまはげ」だった。なまはげは、観光資源として広く知られている一方で、男鹿の暮らしや文化に根付いた存在でもある。NEWPEACEは、この地域固有の資源をまち歩きの体験に取り入れ、駅や道の駅からまちなかへ自然に足を向けてもらうための接点として活用した。
15分のルートを飽きずに歩いてもらうため、まちなか10箇所に、なまはげをモチーフにしたペイントを設置。イラストレーションは今野マルコ氏が担当。なまはげの伝承や儀式、男鹿市の文化や暮らしに紐づく図案を開発した。

コース冒頭に現れる、シャッターサイズのマップ。地魚であるハタハタを釣るなまはげも。

「けで」を集めるなまはげを銀行跡地にペイント

男鹿名物・石焼き鍋を楽しむなまはげ
ペイントの設置にあたっては、まちに店舗を構える店主たちに協力を仰ぎ、店舗の壁面やシャッターをキャンバスとして活用。ルート上には休憩できるベンチも3箇所に設け、散策する人が無理なくまちなかを巡れる環境を整えた。サインやマップだけで誘導するのではなく、地域に根付くモチーフを複数の接点として配置することで、歩く行為そのものに目的をつくる。駅や道の駅からまちなかへ人の流れを生み出すための回遊施策として、「なまはげさんぽみち」を形にした。

カフェ前にはベンチも設置。コース内をゆっくり楽しめる設計に

まちなかの協力店舗には、商店看板も設置した
今回の取り組みは、ホテルや複合商業施設、散歩ルートといった個別拠点のクリエイティブ制作に留まらない。男鹿に残る港町の記憶、ものづくりの痕跡、なまはげに象徴される暮らしの文化を再解釈し、訪れる人と暮らす人が交わる新たな動線と体験をつくるプロジェクトだった。NEWPEACEは、まちに点在する資源をひとつの文脈で接続しながら、男鹿の未来のビジョンを形にしている。
高木新平
クリエイティブディレクター / コピーライタープロジェクトの企画設計に加え、クリエイティブディレクション、ホテルネーミングやコンセプト開発を手掛けた。
羽賀瑛優咲
プロデューサープロジェクト全体のアカウント担当と、クリエイティブ制作、プロジェクトマネジメントを担った。
岡田友香梨
アートディレクション / デザイン(CYAN)伊藤健
デザイン(CYAN)今野マルコ
イラストレーション - なまはげさんぽみちPUCCA SIGNS
ハンドペイント - なまはげさんぽみち大橋修吾
WSファシリテーター / マップ翻訳 - なまはげさんぽみち株式会社イサオサイン
シャッターアート施工 - かぜまちみなと / なまはげさんぽみち株式会社看板屋
シャッターアート施工 - なまはげさんぽみちSHIDA
ベンチデザイン - なまはげさんぽみちミナトファニチャー
ベンチ製作・施工 - なまはげさんぽみちK・S・デザインカトウ
店舗看板製作 - なまはげさんぽみち株式会社杉山広告社
FRP造形製作 - なまはげさんぽみち有限会社アタペック
ストリートペイント施工 - なまはげさんぽみち株式会社山田写真製版所
マップ印刷 - なまはげさんぽみち星野慧
記録写真(Outcrop)