佐賀市|地元の日常を旅の価値に変える、佐賀市の新たな観光ブランディング
CHALLENGE
OUTCOME
有名スポットや特産品を前面に押し出す観光プロモーションが主流となるなか、佐賀市が掲げたのは、地元の人にとってはあたりまえすぎて気づかない、このまちのしあわせを伝えるユニークなコンセプト「あたりまえハッピー」。そして、そんな日常のしあわせを、ありのままに楽しんでもらう観光のかたちとして提案されたのが「あたりまえ観光」だ。佐賀市に流れる、穏やかで少しうれしい時間や光景を観光の文脈にひらいていくこの取り組みにおいて、NEWPEACEはこの既存コンセプトを受け継ぎつつ、「あたりまえハッピー」が訪れる人にも伝わるWeb体験の設計とプロデュースを担った。
「あたりまえハッピー」という詩的な言葉を、旅人が実際に体験できるかたちに。NEWPEACEが担ったのは、その言葉に込められた温度やリズム、空気感を編集し、旅の入り口として具体化することだった。
一般的な観光サイトといえば、施設情報や地図、アクセス案内を思い浮かべるかもしれない。本サイトが目指したのは、そうした機能情報の提供ではなく、佐賀市に流れる“空気感”を伝えること。地元の人の視点でまちを歩くような感覚を重視し、風景や暮らしに寄り添いながら、等身大の視点で表現を構築した。
情報の網羅性や機能性に偏らず、「なんか、行ってみたい」と感じてもらえる情緒や余白を大切にした設計を追求。ふと立ち止まりたくなる写真の距離感や語りかけるようなコピー、やわらかく少しユーモラスなトーンで統一したデザイン・文章・UXが一体となり、訪れる人にとっての“感じる体験”を形づくっている。
スチール撮影には主にフィルムカメラを採用し、粒子感や光のにじみが、佐賀の風景に宿る素朴さや温度を自然に引き出した。余白を活かしたレイアウトとあわせ、「読む」のではなく「ふれる」「感じる」体験を目指した。
サイトの柱となるのが、「あたりまえ観光体験100」だ。スーパーで売っている刺身がおいしい、市内のあちこちに恵比須像がある、気球が民家のあいだを飛んでいく——そんな何気ない日常の風景や感覚を観光体験として編集し、訪れる人が佐賀の日常にふれられる構成とした(公開時点では20件、今後拡充予定)。
この体験群の特徴のひとつが、「わかる〜ボタン」の設置。共感や関心の反応を可視化することで、訪れた人同士の感覚が緩やかにつながる仕掛けとして機能している。
私たちのような外部の立場からまちを巡ることで、地元の人にとっての当たり前が、訪れる人にとっては新鮮な体験になり得るという実感があった。一方で、それとは異なる視点から佐賀の日常を伝えるのが、佐賀市で暮らす4人の市民とともにまちを歩くコンテンツである。アートギャラリーの店主、熱気球のパイロット、和紙職人、編集者といった様々な背景をもつ彼らが案内するのは、有明海の穴場やレトロな映画館、行きつけの料理屋やカフェ、水汲み場、公園など、日々の暮らしの延長にある場所ばかり。
取材を通じて印象的だったのは、暮らしの話を語る中で「こんなふうに見てもらえるんだ」と驚いた表情を見せてくださったこと。地元の人の語りと、外から見るまなざし。両者が重なることで、“あたりまえ”のなかにある個別の意味や記憶が立ち上がってくる。
サイト公開後、「なんでもない風景が愛おしく見えた」「自分のまちも、誰かにとっては旅の目的地かもしれない」といった声が、地元の人たちから寄せられている。掲載された体験コンテンツには、すでに多くの「わかる〜ボタン」が押され、共感のリアクションが積み重なりつつある。
今後も、佐賀市に暮らす人や訪れた人の視点から、新たな“あたりまえハッピー”を発見・追加していく予定だ。誰かにとっての日常が、他の誰かの特別な旅の入り口になる——このサイトが、そうした視点の重なりを起点に、今後も育まれていくことを期待している。
ユリ アボ
プロデューサー/プロジェクトマネージャーRiku
プランナー / ディレクター井手 康喬
クリエイティブディレクター / コピーライター(博報堂ケトル)田中 淳
アートディレクター / ロゴデザイナー(tuii)伊藤 友紀
アートディレクター / ロゴデザイナー(tuii)池野 詩織
フォトグラファー松本 龍彦
WEBクリエイティブディレクター(Wab Design)安藤 名穂
WEBディレクター(Wab Design)武藤 真理子
WEBアートディレクター / WEBデザイナー(Wab Design)松本 卓也
デベロッパー(Wab Design)牛島希
ライター(EWMファクトリー)中島彩香
ライター(EWMファクトリー)